辺境で枯れる柄澤望

釣りが大好きで大好きでたまらない、ちょっと突き抜けた変態が津々浦々の魚たちを相手に繰り広げる死闘をゆる〜く書きつらねる

大森貴洋の道具論

 今年の4月31日に発行された別冊つり人「Pride of STEEZ」。

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本屋でパラパラめくってみると巻頭に大森貴洋氏の道具についての特集が組まれていた。今ではすっかりB.A.S.Sのスター選手となった彼の道具理論には非常に興味を持っていたので、即座に購入してしまった。皆さんは「バスプロ」の道具と聞くとどんなイメージを持たれるだろうか。ボートデッキに何本も並べられたロッドとリール、ボート内にぎっしり詰め込まれたおびただしいほどのルアーやワームのパッケージ、それにシンカー・フック、ロッドやリールもスポンサーによっては毎年新たな商品にリニューアルされ、それらは雑誌にデカデカと掲載されることで一般アングラーの購入意欲をそそる・・・一体に釣り業界の道具の進歩というのは目覚ましいものがある。年始のフィッシングショーでは決まって新素材を使った目玉が飛び出そうになる価格のロッドやリールが展示され、各メーカー御用達の口達者なメディアプロがトークショーなんかでそれがいかに凄いか、日頃どれだけ愛用しているかを声高に語る。これがなくなったら世界が滅びるとでも言わんばかりである。

 

大森の道具との絆は、商業主義の薄弱なそれとは対照的なものだ。まず、彼の釣り具に要求される最低限にして最大の基準は”実用的であること”。それが高い次元で満たされているならば、値段や新旧は関係ない。彼がすでに発売されてから約20年が経とうとしているダイワのTD-Sというロッド、その中で特に701MHRBというモデルを主にファストムービング用として2016シーズンまで愛用していたのはあまりにも有名な話だ。これと同社のブラックレーベルPF731MHFB(カバー打ち用)の二本で自分の釣りの90%は賄われている、と大森はDAIWA社の動画で語っていた。参考程度に言えば、PF731MHFBは実売価格2万円前半、TD-Sの701MHRBに至ってはわずか1万円前半である。後者はとっくの昔に廃盤になっているので、今中古で買うとしたら、小学生のお小遣いで買えてしまうことだろう。大森はとっくに廃盤になっているこの廉価ロッドを大量にストックしながらアメリカのトレイルで使い込んできたのである。ちなみにwikipediaによると彼の生涯獲得賞金額は日本円して2.8億円以上だという。エントリーロッドで億を稼ぐバスプロ。これぞアメリカンドリーム。

 

さて、この「Pride of STEEZ」という雑誌の話に戻ろう。この冊子では大森貴洋の”仕事道具”を取り上げている。まず、目を引くのは大森の釣り具部屋の写真。

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自宅のガレージやボートに店でも開くのか?と戸惑ってしまうほどに釣り具をストックしているイメージを持たれがちのバスプロであるが、こと大森に関しては見出しにあるように非常にシンプル。

"ハードベイトとフック&シンカーなど小物類を収めたタックルケースが約50個と、ソフトベイトを収めた大型収納ケースが20箱余り。ボートとキャンパーに積み込んである分が別にあるとはいえ、これが大森貴洋の持つ全ルアーである。”

                    (P13写真説明文より引用)

これはバスプロとして生きる上で何にも増して重視される”釣れるか否か”という厳正な基準において2年前から断捨離した結果至った形だと大森は述べる。この部分はミニマリストの気があるアングラーからしたら失禁しそうなほどワクワクする読み応えのある部分だろう。

次にタックル紹介のページがある。

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これによると大森の使用タックルはベイト4+スピニング1のわずか5タックル。例外はなし。内訳は

1.TATULA ELITE701MHRB-G(DAIWA)・・・2017年発売。ストックの少なくなってきていたTD-S701MHRBの代わりとしてUSA DAIWAで新たに開発されたモデルである。クランク(シャロー〜ディープ)、バイブ、スイムベイト、スイムジグ、ワイヤーベイトで使用。

2.TATULA ELITE731MHFB(DAIWA)・・・2017年発売。大森のもう一つのメインロッドBL-PF731MHFBに代わるロッドとして新たに導入。ジグ&ワーム系のほぼ全てに使用。

 

3.Black Label FM661MHFB(DAIWA)・・・ペンシルやジャークベイトなどのロッドで動かす釣りに使用。優勝した2016エリート第四戦ウィーラーレイクでウィニングルアーの一つであるスーパースプークを操っていたのが他でもないこのロッド。

 

4.TATULA 741HFB(DAIWA)・・・ヤマセンコーなどのフィネス系に使用。使用頻度は少なめ。

 

5.STEEZ XT 701MHFS(DAIWA)・・・唯一のスピニング。おそらくUSAのモデルかと思われる。シェーキーヘッドやドロップショットで使用。

 

以上。実に潔い、男らしいロッドチョイスである。本誌では、このシンプルな大森のロッドチョイスについて「バスの神様」リッククランが提唱した「ワンロッド理論」を比較して説明している。「ワンロッド理論」とは、2001年シーズンの終了後にリッククランが提唱したワンセットのタックルで釣りを全てカバーする、という考え方だ。具体的には

”7ftヘビーアクションのクランキンロッドにギア比6.3のリール(当時のハイスピード)を合わせたタックルですべての釣りをカバーする"(P18より引用)

のが「ワンタックル理論」。この斬新な思想の最大の目的は、タックルを自分の体の一部として完全に制御することだった。そこにはクランがキャストコントロールの不正確さとプレゼンテーションの甘さにより、ミスバイトとバラしに悩まされていたという背景があった。本誌ではそう述べられている。つまり、タフコンディションが原因となる魚側の問題とは別に、アプローチする釣り人側の諸問題を解決しようとして導き出された理論こそが「ワンロッド理論」だったのである。そしてこの理論はリッククランが感覚をどれだけ重視するアングラーだったかを物語っている。驚いたのは、本誌によると実は大森はリッククランよりも早くにこのスタイルを志向していたということだ。記事によれば、大森がわずか2セットのタックルで自分の釣りの90%をカバーする、という試みを実践し始めたのは彼の渡米直後、つまり90年代半ばだという。記事ではそれと併せて大森が自身の使うベイトロッドのトリガーを全て削り落とすという極めてユニークな調整を行っていることにも言及し、大森もまたリッククランと同様に感覚派のアングラーであることを結論づけている。

 

ちなみに大森の使うベイトリールはたった一つ。ジリオンSV TW1016SV-XXH(DAIWA)である。9.1のギア比を持つこのリールを、大森はカバー打ちはまだしも、巻物にも使っているのだ。これについて、「スローに引きたいときはどうするの?」という雨貝健太郎氏の質問に大森は次のように答えている。

”「自分がゆっくり巻けばいいだけの話。ハイスピードギアで遅く巻くのは簡単だけど、逆にロースピードギアで速く巻こうとしても限界がある。あとは、バイト直後に走られたときとか、ファイト中にジャンプされたときなんてロースピードギアではとても対応できないからね。」”(P13より引用)

正直、今まで私はリールのギア比などあまり気にしていなかった。が、第一線のプロがここまで述べるならあるいは・・・と思わせる説得力がある。彼のハイスピードギアへのこだわりは部分的にではあるが、以下の動画でも言及されている。是非参考にされたい。

www.youtube.com

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ここまで、大森貴洋の道具理論について主に別冊つり人「Pride of STEEZ」を参考にご紹介させていただいた。ここで一つ、注意しておきたいのは、彼のタックルチョイスが必ずしもバス釣りにおける正解とは限らないということだ。日本人アングラーから見た彼の一番の特徴は、非常にシンプルで無駄の削ぎ落とされたタックルセッティングであるが、それは彼の釣りのスタイルがいわゆる”バンクビーター”と言われるシャローの釣りを中心に完成されているために他ならない。ここからは私のバス素人なりの考えだが、アメリカではバスプロは必ずしもオールラウンドである必要はなく、どれだけ湖のコンディションに自身のスタイルを当てはめていけるか、が重視される。その背景にはそれぞれの湖が日本のそれらとは比較にならないほど広大であり、”そこにいる”魚をどう釣るか、よりも魚が”どこにいるか”を早く掴むことがしばしば試合に勝つための大切な要素となってくる、ということがある。一方で、日本のトーナメントシーンは"どう釣るか”がキーになってくる。タフコンディションであることが珍しくない狭いレイクで、なかなか口を使わない魚を繊細な妙技で仕留めることが重要になってくるのである。簡潔に言えば、アメリカと比較して日本では一匹の価値が非常に大きくなってくるのだ。一匹の魚をばらさない為には、自分の使うリグに応じた最適解とも呼べるタックルが必要となってくる。なぜなら、誰もがリックや大森のように完璧に道具を制御できるわけではないし、やはり何と言っても”専用”というのはそのリグの使用感を極限まで高めてくれるからだ。これはリグが軽く、小さくなるほど顕著だと言える。というか、リックや大森のスタイルはアメリカにおいてもやはり少数派であることが「Pride of STEEZ」では述べられているし。

そうは言っても大森のタックル論は商業主義の波に踊らされがちな日本の我々からしたらやはり胸躍る新しい考え方の一つであることは間違いない。これを機に、一度自分の道具を見直してみてはいかがだろう。あと、「Pride of STEEZ」、大森選手の記事の他にも面白いページが盛りだくさんです。すごくおすすめ。これは本心だから商業主義じゃあない。間違いない。